なぜ米国債利回り低下?

 [2013-10-26] 本日は、最近私が口を酸っぱくしている米国債の利回りについて紹介してみたいと思います。

 ここ1週間程度の間に、米国債の利回りが大幅に低下したと言う事について、既にご存じの方も多いと思いますが、では、「なぜ米国債の利回りがここまで急速に低下したのか?」と言う理由について御存じ無い方も沢山いらっしゃると思います。

 そこで、今回は土曜日でマーケットがお休みと言う事もありますし、そんな近年のドル円マーケットを追いかけて行く上で必須となる米国債の流れについて、簡単に紹介してみたいと思います。

米国10年債利回りの推移1ヵ月ベース

 上は、ここ1ヵ月の米国債(10年)の利回りの動きです(Yahoo financeより)。

そもそも米国債が売買される理由とは?

 まず、そもそも話になりますが、「米国債がどのような場合に買われて、どのような場合において売られるのか?」と言う基本的概念を知っておく必要があります。

 米国債が買われるケースとして、最も一般的なものは「世界経済に停滞観測出た場合」で、マーケット関係者からは「リスクオフの展開だ」などと言う風に表現される事がしばしばあります。

 リスクオフの展開とは、投資家がリスクを取り辛い状況で、つまり“ハイリスクハイリターン”となるような金融商品に対して投資をする事を控えている状況を指します。

 そのようなハイリスクハイリターンとなるものとして、通貨で言うならば新興国通貨(南アフリカランドドル・オーストラリアドル・ニュージーランドドル等)、株、原油(商品先物)と言ったものが代表的となります。

 反対にリスクオフの状況においても投資が活発になるものがあるのですが、それが通貨で言うならば米ドル・日本円・スイスフラン、米国債・日本国債、欧州ではドイツ国債、金(商品先物)と言ったものになります。

 なぜリスクオフの展開でこれらのものが購入されるのか?と言うと、それは上記で上げたものは「将来的に価格が下がりにくい(価格が安定している)」とマーケットから考えられているためです。

 つまり、安定資産だと考えられるものがリスクオフでは購入され、それ以外のものはリスクオフの展開では売られる(売られやすい)と考えておいて頂ければと思います。

 米国債は、そう言ったマーケットのリスクオフやオンと言った状況において、基本的には世界経済が悪化している状況で買われ、「買われて米国債自体の価値が上がるからこそ、利回りが低下する(購入したい人が多いので利回りが小さくても売れる)」と、言う事をまず御理解ください(リスクオフ・オンと通貨や米国債の関係について詳しくは:FX初心者のためのリスクオン・リスクオフの違いをご参照ください)。

最近のマーケットはリスクオフなのか?

 次に、最近のマーケットに目を向けてみますと、米国債が買いこまれ利回りが大幅に低下したのは言うまでもありませんが、それはマーケット全体がリスクオフだったからなのでしょうか?

 例えば、金相場を見てみると以下のようになっており、先に紹介している米国債の利回りと同じように15日を基準とした動きが見え、さらに上昇路線を歩んでいる事が分かります。

金相場の推移1ヵ月ベース

 これはつまり、リスクオフの展開を示唆するものと考える事が出来る訳ですが、そこで次の米国ダウ平均株価の推移について、同じ時間軸1ヵ月の推移で見て頂きたいと思います。

米ダウの推移1ヵ月ベース

 「あれ?」と思われましたか?

 そうなんです。リスクオフの展開では売られ、価格が下落するはずのダウ平均株価が上がってしまっているわけなんですね。

 さらに、新興国通貨のチャート等を用意されて、1ヵ月ほどの時間軸ベースにして見て頂ければ、リスクオフの状況を疑う条件が沢山あるので、是非これを機会にいろいろなチャートを見て頂ければと思うのですが、どれも一過性が無く、リスクオフの展開とは言いづらいのが今のマーケットになります。

 それでは次のチャートを見てください。

ドルインデックスの推移1ヵ月ベース

 上は、ドルインデックス、つまりはドルの全体的な価格の推移を指数化したものなのですが、これを見て頂けると分かるように15日をベースにして下がっている、つまりドルの全体的な価値が下がっている事が分かります。

 実は、現在のマーケットにおける全ての状況は、リスクオフやリスクオンと言ったものに縛られておらず、米国の状況にしばられている事が、このドルインデックスを見る事で分かるのです。

現在のマーケット状況を端的に言うと

 次に、現在のマーケット状況を端的に解説してみますと、まず、米ドルが売られていますが、これにより他の新興国通貨とのペアにおいて米ドル売りが発生している事で、新興国通貨が買われている状況が作られています。

 この状況はリスクオンの展開と考えられがちですが、米ドルの価格の下落は、その代替え資産として考えられる、金や米国債を買いこむ動きへと波及します。

 それは、米ドルのように安全な資産(と考えられている)が値下がりしている訳ですから、資産安定のために違う安定資産を保有する必要があるためです。

 これはコロンブスの卵で、金が上がったから米ドルに波及した(米ドルを売って金を買った)や、国債が買われたから(米ドルを売って国債を買った)とも言え、マーケットは常に相互依存だと考えておいてください。

 つまりは、「米国発の動きでかなりマーケットが振り回されている現状が今」と言う事を理解してトレードをすると、その注目材料が表面化し分かりやすくなります。

では、なぜ米国債の利回りが低下?

 さて、長くなってしまいましたが最終的に、なぜ米国債の利回りが低下しているのか?と言う話について紹介してみたいと思います。

 その理由は他でもない、「米国の量的緩和延長の観測」が主として出てきているためです。

 こう言った事はチャート上には表示されず、やはりマーケットをファンダメンタルズ路線から追いかける必要があるのですが、現在のマーケットは米QE2の実施が発表された時のような動き、そのものとなっています。

 米政府機関の閉鎖や、債務上限引き上げに関する米政府間のもつれも伴い、米国ではこの先の景気後退目線が強くなってきています。

 それはつまり、QE(量的緩和)の延長を意味し、加えてはバーナンキFRB総裁の後任として、イエレン現副総裁が登場する事で、さらなるハト派(量的緩和推進派)が幅を利かせる事が考えられます。

 そのため、マーケットはFRBによる米国債購入の延期を視野にいれた米国債買いを行っているのですが、このような今の米国債の変動幅を見ておりますと、「どのようにして量的緩和を止めるのか?」と言う話になると、正直将来に対する不安は尽きそうにもありません。